モダン煉瓦のつぶやき

平城京から平安京。
遷都の物語に、幻の都があったと言う。
教科書にも載らない都の名前―長岡京―。
そんな幻の都があったここ京都府長岡京市から、京を切り取る今日のいろ。

モダン煉瓦のつぶやき

京都が都だった千年前。
建物は木造建築。
木を使い、暖かみがあるイエローベースの黄色や橙が中心となっている、自然なままの色使い。
都が東京へ移り、西洋のものが入ってきた約百年前の明治時代。
建築材料に、同じ自然界でも木ではなく、ヨーロッパのように粘土や泥に手を加えたの煉瓦が登場する。
手は加えられているが、自然のままの色合いが活かされ、こちらも暖かなイメージのイエローベース
煉瓦で造られた建物の色は、そこはかとなく暖かさとぬくもりを感じる。
和が似合う京都で、今も出会えるモダン。
明治28年竣工の、フレンチルネサンス様式である京都国立博物館をはじめ、煉瓦で作られた近代洋風建築たち。

京都文化博物館は、旧日本銀行京都支店として、明治27年に竣工したルネサンス様式。
聖アグネス教会は、明治31年。
それぞれ煉瓦造りの外壁が美しい。
これらの室内照明は、明治時代に主流だったイエローベースで黄みがかっている白熱色の白熱灯がよく似合い、出来上がる空間はあたたかく、重厚でモダン。

照明の色は温度によって「色温度」で表される。
色温度が低いと「赤みがかった色」となり、色温度が高くなるにつれ「黄み~白~青みがかった白」へと色が変化していく。
「赤みがかった黄色」の朝焼けの太陽の光や白熱灯の白熱色はイエローベースであり、「青みがかった白」の昼間の太陽の光、蛍光ランプの昼白色は、ブルーベースである。

外壁がイエローベースならば、照明もイエローベースがいい。
ベースカラーがそろっていると、見た目とともにその空間に落ち着きと統一感ができ、居心地も良くなる。

どっしりとした煉瓦造りの近代建築たちに重厚さが増す。

 

ところが、ネオルネサンス様式で、明治35年に竣工した中京郵便局は対照的である。

同じく煉瓦造りの建物であるが、郵便局内の照明は、昭和時代から登場した蛍光ランプで昼白色。
博物館や教会のように、時間はゆっくり流れない、郵便局では仕事中。
正確さを求められる業務の場所では、黄みがかった白熱色では色温度が低すぎる。

一般的に、色温度が低いとあまり明るくないほうが快適な照明環境となるので、白熱色のように黄みがかった照明では手元に明かりが足りない。
ここで必要なのは、書類の字や数字がはっきりと分かる、昼白色で明るい照明だ。

昼白色は青みがかったブルーべース
外壁のイエローベースの煉瓦とは、ベースカラーの違いにより、見た目に違和感が生まれる。
しかし今この場所には、モダンや重厚さは必要ないのだ。

 

では、当時の内装を忠実に再現した京都文化博物館は、旧日本銀行京都支店として機能していた頃はどうだろう。
白熱灯の黄みがかった明かりの中で、手元のそろばんは、はっきり見えていたのだろうか。
気になるところである。

 

百年は「たった」百年か、「既に」百年か。

千年の都の京都。
煉瓦たちは「明治は遠くなりにけり」と、つぶやいているのだろうか。

 

きょうの色

煉瓦色(れんがいろ):暗い黄赤

杉原康子ライター:杉原康子
【資格など】ベースカラー診断士、パーソナルカラーアナリスト、CLEインストラクター、A・F・T 1級色彩コーディネーター、長岡京生涯学習人材登録講師、中国国家認定 中国茶芸師(プロフィールページへ