春に見る夢、桜色のトンネルを越えて

平城京から平安京。
遷都の物語に、幻の都があったと言う。
教科書にも載らない都の名前―長岡京―。
そんな幻の都があったここ京都府長岡京市から、京を切り取る今日のいろ。

長いトンネルを抜けると、そこにあるのは希望か未来か。

どちらにしてもトンネルは長く暗いイメージ。
このまま駆け抜けてしまおうか・・・。

春に見る夢、桜色のトンネルを越えて

京都の春。
どこに行ってもソメイヨシノが咲き誇る。
一斉に咲き、一斉に散る。
桜の見ごろは一度で終わってしまう。

嵐電の線路わきでトンネルを作っていたソメイヨシノも終わりを告げてしまう頃、やっと満開を迎える桜。
それが嵐電御室仁和寺駅からすぐの世界遺産「仁和寺」の御室桜。

『御室桜』の品種は『有明』。
『御室桜』と言う品種は無い。
ソメイヨシノのように枝が大振りではなく、樹高は比較的低い。
これは、土地が粘土質で根が張りにくく、大きくなれないと考えられている。
樹高が低い分だけ、地面に近い所で花が咲く。
花はこん盛りと咲き、しかも香りがある。

「桜色」と言えば思い浮かぶのは「薄いピンク」。

日本工業規格(JIS)で定められた桜色の定義は「赤紫の赤みを強くし、ごくごく薄くした色」。
実はそれほどピンク色ではない。
ピンクとは本来、赤に白を足した色である。

私たちは色を実際の色よりも濃く、鮮やかに記憶する。
それは記憶色と呼ばれる現象で、桜のある風景など、実際の色よりも色鮮やかに記憶しており、思い出の色と実際の色がずれることがある。
このずれを補うため、写真印刷は記憶色に沿うように、わざと色鮮やかに印刷される。

御室桜は、ソメイヨシノなどに比べれば花びらは白い。
それでも集まり重なり合うと、ほんのりピンクの桜色。

少し冷たいブルーベースの御室桜のピンク。
その昔、御室御所と呼ばれ、皇室にゆかりのある仁和寺
土塀の五本の白い横線は、皇室にかかわりのある門跡の証。
そこにふさわしく、きりりと品が良い桜色。
天皇に見上げて花見をさせるのが恐れ多いので、御室桜は大きくならないとも言われているのだとか。

低く、固まって生えている御室桜。
ソメイヨシノと違い、こんもりずんぐりしている桜。
混み合い重なり合う枝と枝との間から見上げた春の青空は、ぼやけた桜色。
蜜を吸いに来たメジロやヒヨドリが花をついばむ。
ひとしきりついばんで、ぱっと飛び立つと舞い散る花びら。
花びらは桜色のじゅうたんを作る。

そして、足元からもこもこと桜のトンネルが生い茂る。

 

長いトンネルを駆け抜けてしまう前に、少し立ち止まって見上げてみる。
春の記憶の色はずれてしまうけれど、そのトンネルは桜色。

 

きょうの色

桜色(さくらいろ):淡い紅色

杉原康子ライター:杉原康子
【資格など】ベースカラー診断士、パーソナルカラーアナリスト、CLEインストラクター、A・F・T 1級色彩コーディネーター、長岡京生涯学習人材登録講師、中国国家認定 中国茶芸師(プロフィールページへ