海のない京都の街に水を訪ねて

平城京から平安京。
遷都の物語に、幻の都があったと言う。
教科書にも載らない都の名前―長岡京―。
そんな幻の都があったここ京都府長岡京市から、京を切り取る今日のいろ。

 

海のない京都の街に水を訪ねて

 

入道雲が、もりもりと育つ夏の京都。
汗が滴る毎日。
体中の水分がすべて蒸発してしまう前に、涼しい水辺に行きたい。
海のない京都の街。
水はどこだ。
冷たい水は。

 

 

真夏の土用。
世間ではうなぎを食べる丑の日。
世界遺産 下鴨神社(賀茂御祖神社かもみおやじんじゃ)の、みたらし祭り。
無病息災を願い、境内に流れる小川に足を浸す足付け神事。
土用の丑の日の前後五日間行われ、いつも入ることはできない御手洗池(みたらしいけ)に足を付ける。
水は、真夏とは思えないほど、体の芯を凍らせるかと思うほど冷たい。
お入り口で渡される小さいなろうそくを持ち、きぃぃぃんと冷たい水を進む。
罪や穢れを水に流し、お清めをする。
小川の奥にある井上社(いのうえしゃ)、またの名を御手洗社(みたらししゃ)。
その小さな御手洗社の手前にある御手洗池。
冷たい水の中、膝ほどの深さの水を裸足で、御手洗池に進む。
湧き出る冷たい水。
手にした小さなろうそくを水の祠で火をつけ、灯明として、瀬織津姫命(せおりつひめのみこと)に捧げ、穢れを祓ってもらう。

 

そしていただく御神水。
こんこんと流れ出る湧き水は、ご神紋であり、葵祭りでもおなじみの「双葉葵」絵柄の、「鴨のくぼて」の茶碗に。
透明な御神水がなみなみとつがれる。
のど元過ぎて暑さも忘れて、これで心身ともに清められる。

 

水は透明。
名前で表すなら「みずいろ」。
平安の世には使われていたとされる「水色」。
さらに古く、万葉集では「水縹」。
竹取物語の翁とされる人物が、若いころに「水縹」色の帯をつけている描写がある。
その色はやはり、青を薄くした涼し気なブルーベースの色であると思われる。
求婚をしてくる娘から送られた水縹の絹の帯。
さて、若いころの翁は、クールでさわやかな、水も滴るブルーベースのよき容姿だったのだろうか。

 

海のない京都の街に水を訪ねてさらに、京都北山の純粋な伏流水を「食べて」みる。
下鴨神社から北東へ少し、住宅街の中にある、京都の和菓子あずき処「宝泉堂」さん。
こちらの夏季限定、『京しぐれ』。
材料は、寒天、砂糖、小豆。
水で固めた寒天は、ほんのわずかな甘み。
口の中でさっと水に返る。
透明な寒天に散らす丹波大納言小豆、丹波白小豆、丹波黒大豆。
しっかりした小豆の甘さでも、邪魔することなく、ほんのりとした甘い水を堪能できる。

 

その水の色の呼び名は、万葉の昔から。
御手洗池に足をつけ、御神水をいただき、北山の水を食し。
今しばらく続く京都の暑さ、しばし紛らす。

 

きょうの色

水縹(みはなだ・みずはなだ):ごく薄い青

杉原康子ライター:杉原康子
【資格など】ベースカラー診断士、パーソナルカラーアナリスト、CLEインストラクター、A・F・T 1級色彩コーディネーター、長岡京生涯学習人材登録講師、中国国家認定 中国茶芸師(プロフィールページへ