魔よけの赤、暑さ払いの氷の三角と夏越の祓え

平城京から平安京。
遷都の物語に、幻の都があったと言う。
教科書にも載らない都の名前―長岡京―。
そんな幻の都があったここ京都府長岡京市から、京を切り取る今日のいろ。

1気付けば、今年も半分。
とろけるような暑さが来る前に、少しテコ入れをしましょう。
6月に入ると、長岡京にある、『京都の和菓子 京みずは』さんはじめ、京都の和菓子屋さんに並ぶ和菓子があります。
名前は『水無月』。
まさに6月に食べるお菓子です。
白いういろうの上に、小豆がたっぷり。
これを三角に切り分けると『水無月』が完成。
この和菓子は氷を表しています。

うだる暑さの京都。
その昔、厳しい寒さの冬のうちに涼しい山に『氷室』と呼ばれる洞穴を掘り、そこに氷を備蓄、夏にそこから切り分け、宮中に献上していたようです。
しかし、庶民たちには高嶺の花。
それをまねして、氷の色の『白』と『三角の形』にし、切り取った氷を表現。
少しでも涼を感じようとしたようです。
この『氷室』、現在京都に四ヶ所確認されていて、その一つが、京都市内の北に位置する、御室桜で有名な世界遺産・仁和寺の後方にそびえる山の中にあったようです。

仁和寺
京都市内や京都御所よりは北に位置する氷室の中で大事に保管されたことでしょう。
氷を表現する白い水無月。
この白は米粉などを蒸したういろうの白。
そしてその上に乗っている小豆。
小豆は『赤』。
赤と言えば「厄除け」や「魔よけ」を意味します。
あらたな気持ちで迎えた新年から半年。赤い小豆を食べて厄を払います。
最近では白だけでなく、「京都と言えばお茶」とのことで、抹茶味の『緑』、黒糖を使った『黒』なども店頭に並びます。
清らかで穢れの無い色の代表『白』、魔よけの『赤』、暑さ払いの『氷の三角』。
色と形で、おいしく穢れを払います。

しかし、半年の穢れを払うには、食べるだけでよいでしょうか。
やはり、ここはちゃんと、神様にもお払いしてもらいましょう。
毎年6月30日、まさに一年の半分の日。
この日は京都市内の神社で『夏越の祓え(なごしのはらえ)』の行事があちらこちらで行われます。
茅で作られた茅の輪(ちのわ)くぐりの神事です。

車折神社
車折神社(くるまざきじんじゃ)でも夏越の祓えの神事は6月30日です。
神事の前ですが、こちらでは6月1日から茅の輪が設置されているので神事の前でも自由に茅の輪くぐりをする事ができます。

車折神社
刈り取られれた茅で作られている為に、何日か経つと瑞々しくあおあおしていた茅の色が褪せていきます。
葉が色褪せてしまった茅の輪は、同時に鮮やかさも失ってしまいます。

車折神社
車折神社では石鳥居に取り付けられますが、石の色は灰色。
石鳥居の、もともと鮮やかではない色合いと、茅が色褪せてしまった茅の輪は、その風景に溶け込んでしまい、境内にあるのも気付かぬほど、ひっそりとしています。
茅の輪に横にあおいカヤが挿してあり、どれほど色が抜けてしまったのかが分かります。
茅の輪を良く眺めてみると、内側にはまだ少しあおいままの茅も隠れています。
京都市内にある神社では、夏越の祓えに近くなればなるほどみずみずしい茅の輪に出会えます。

松尾大社
1300年の歴史ある松尾大社(まつのおたいしゃ)でも夏越の大祓の儀式が行われます。
こちらの茅の輪はまだあおい茅の輪。

松尾大社
夏越の祓えの前日より、境内にて一本の茅を「お祓いさん」として拝受できます。
茅には「拾遺和歌集」の和歌「水無月の夏越の祓する人は千年(ちとせ)の命(よわい)延ぶといふなり」の水色の短冊が付いています。

松尾大社
茅のあおい色と水色の青、すがすがしい色の取り合わせです。
これからやってくる夏の暑さを目からも暑気払い。

刈り取られてから日が経ち、淡い黄色に変わった茅の輪、まだああおあおとした茅の輪。
どのような色合いであっても、茅の輪をくぐり、白い氷を表す水無月をいただいて。
これで今年前半の穢れはリセット。
また半年、気を引き締めあらたな気持ちで、改めて無病息災、家内安全。

旧暦では夏が終わる日ですが、京都の暑い夏は、これから始まります。

杉原康子ライター:杉原康子
【資格など】ベースカラー診断士、パーソナルカラーアナリスト、CLEインストラクター、A・F・T 1級色彩コーディネーター、長岡京生涯学習人材登録講師、中国国家認定 中国茶芸師(プロフィールページへ