天竜寺のあおもみじ

今の時期の京都の「色」はと聞かれたら、ためらいなく黄緑、萌黄色と答えます。
この色は初夏の樹木に共通する色ですが、「いろはもみじ」をはじめて見たときの感動が忘れられないわたしは、「青もみじ」と呼ばれる時期の「いろはもみじ」が一番と答えます。

「いろはもみじ」には京都に来てまもなくの夕刻、天竜寺境内の散歩中に出会いました。

蓮池の向こうに見えるのが勅使門の屋根

[蓮池の向こうに見えるのが勅使門の屋根]

天竜寺の総門(高麗門・こうらい)・中門をくぐり、勅使門の前に広がる蓮池を横目に、庫裏(くり)に向って歩き出すと両脇からいろはもみじの枝が道を遮るように張り出していました。
目を近づけると、夕日の中に、枝の先の小さな萌黄色の葉が微風に揺れ、見る角度や葉の重なりによって淡く透けたり、深みを増したりと色調を様々に変化させていました。
これまで花や植物に殆ど関心を持っていなかったわたしでさえ心から美しいと思いました。
墨と緑の違いはありますが、水墨の山水画の一部を切り取ったような深みと清涼感に身を包まれました。

天竜寺境内のあおもみじと薄紅色の翼果]

[左・天竜寺境内のあおもみじ、右・薄紅色の翼果]

右上の写真に薄紅色の竹とんぼ状のものが見られますが、翼果と呼ばれる果実で、熟す と風に乗ってとんでいくそうです。

天竜寺境内にゆっくりとあおもみじに浸ることができる場所があります。
法堂の南にある塔頭(たつちゆう)、宝厳院(ほうごんいん)の「獅子吼(ししく)の庭」です。
「獅子吼」とは仏の説法の力を、獅子の咆吼が百獣を恐れさせる威力を持つことに例えたもので、「『仏が説法する』の意味で、庭園内を散策し、鳥の声、風の音を聴くことによって人生の真理、正道を肌で感じる」庭の意味とのことです(『宝厳院パンフ』より)。
園内はいろはもみじを中心におおもみじ、苔むした獅子岩などの巨岩を配する仏土を模した庭園です。
春と秋に特別公開をしてます。
秋の 「紅葉」は華やかで、こころを弾ませ、明るくしてくれますが、春の「あおもみじ」は奥深く、こころに安らぎと癒やしを充分に与えてくれます。

宝厳院庭園獅子岩

[宝厳院庭園獅子岩]

 

宝厳院庭園

[宝厳院庭園]

 

秋の獅子岩(『宝厳院パンフ』より)と春の獅子岩

[左・秋の獅子岩(『宝厳院パンフ』より)、右・春の獅子岩]

右の写真は宝厳院のパンフとほぼ同じ角度から撮った写真です。
上の獅子岩の写真とも併せて、どちらがいいでしょうか。

NO IMAGEライター:古稀翁
27歳で就職の為、札幌から上洛。定年後、機会をみては遺跡巡りをしています。